【マンガの感想】岡田卓也『ワニ男爵①』『ワニ男爵②』
めちゃめちゃ面白くて味わい深いギャグ漫画だった。
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あらすじ
その名はアルファルド・J・ドンソン。ワニ。職業:小説家。楽しみは仲よしのウサギ、ラビットボーイとの食べ歩き(生ガキや讃岐うどんなど)。超ジェントルマンだけど、お店で時々「野生」が騒いでしまい…。モーニングで、作者も予想外の大反響! 動物好きも、食べ歩き好きも、貴族好きも、『あらしのよるに』好きもきっと満腹。ノーブルにしてワイルドな、なさそうでなかった漫画の誕生!
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ハマった3つのポイント
①ワニ男爵とラビットボーイのキャラの対比が面白い
ワニ男爵は、はじめはドラマ『相棒』の杉下右京みたいな感じかなと思ってたんだけど、それとはまた違う個性がある。
とくにワニ男爵の部屋のインテリアや言葉遣いに溢れる「ていねいな暮らし」「ゆとりのある人生」感がすごい。
第一巻の一話はラビットボーイのキャラのキャラの軽さに慣れなかったんだけど、それを受け容れるワニ男爵の包容力とか、それにしにても気になるラビットボーイの性格のちょっとした悪さとかがクセになってくる。
聖と俗って感じ。大げさかもしれないが。
②ギャグなんだけどファンタジーっぽい不思議さが魅力
ラビットボーイのキャラにつられて下品にならないところもすごく不思議。
香川とか出てくるし新幹線に乗るので、時代や地域設定は現代日本っぽいんだけど、よくよく見ると外国や中世っぽい建物が出てくる。
現代日本にワニ男爵とラビットボーイが住んでるのを強調するとネタっぽさが強くなりそうなんだけど、ところどころお城風の豪邸とかクラシックな雰囲気の帽子屋などヨーロッパあるいは中世風の建物が出てくることで、上品な感じが出てバランスがいい。
しかも、食べ歩きパートやギャグパートでは「町中華の床の油のギトギト感がいい」とか、「あるあるネタ」ともいえるようなディテールがあってピンポイントで笑わせてくれるし、旬なネタが盛り込まれてる。(塩ファサーとか)
③キャラの表情が良い、そして細かい描き込みがいっぱい
建物に貼ってあるポスターとか何気ない背景にもちょっとした描き込みがあってすごく楽しい。ほんとによく見ると、ここにも描き込みが!ってなる。
あと、小さいコマのキャラの顔も表情がしっかり描かれてて、安定感がある。
とにかくキャラの表情がビタっとハマってて気持ちがいい。顔力っていっていいかも。
第一巻と第二巻を通して読んでみて
第一巻でとくに目立ってた、理性的なワニ男爵がたまに見せる野生とか野蛮さみたいなものは今後どれくらい展開されるのか気になるところ。あとは、悪そうな兄弟の存在がほのめかされてたり、家系図がでてきたりしてるので、ワニ男爵ファミリーも出るのかな。
第二巻はではますますキャラが生き生きしてきて、ラビットボーイの小物キャラはすごく安定感ある。まだ謎があるワニ男爵に比べて、姑息なところに磨きが掛かってて笑える。魅力的な脇役も増えてきた!
単に面白い漫画を読んだというより、
小ネタでくすくすっとなったり、ワニ男爵の含蓄あるセリフに感心したり、ラビットボーイの顔芸に爆笑したり、細かい描き込みを楽しんだり、ちょっと良い話にほっとしたり、
とにかく漫画を読む楽しさを味わった。
すごく良かった。次も買います!
【映画の感想】『バーフバリ 王の凱旋』まさに常識破壊。驚天動地。※ネタバレあり
『バーフバリ 王の凱旋』★★★★★(おもしろすぎ!)
「人類史上最大の映画叙事詩」という言葉に相応しい映画だった。
※※※※※※※以下、ネタバレあり※※※※※※※
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あらすじ・解説
伝説の戦士バーフバリの壮絶な愛と復讐の物語を描いてインド映画史上歴代最高興収を達成し、日本でもロングランヒットを記録したアクション「バーフバリ 伝説誕生」の完結編となる第2作。蛮族カーラケーヤとの戦争に勝利してマヒシュマティ王国の王に指名されたアマレンドラ・バーフバリは、クンタラ王国の王女デーバセーナと恋に落ちる。しかし王位継承争いに敗れた従兄弟バラーラデーバは邪悪な策略で彼の王座を奪い、バーフバリだけでなく生まれたばかりの息子の命まで奪おうとする。25年後、自らが伝説の王バーフバリの息子であることを知った若者シブドゥは、マヘンドラ・バーフバリとして暴君バラーラデーバに戦いを挑む。監督・脚本のS・S・ラージャマウリや主演のプラバースをはじめ、前作のスタッフやキャストが再結集。
見たきっかけ
最近、twitteでこの『バーフバリ』をおススメするツイートをいくつか見たのだけど、そのなかでもインドで今作の予告編を流した時の動画がすさまじく、これは見に行かねば!!となった。それが以下の動画。
Bahubali 2 trailer in kurnool Prabhas fans
予告編だよ?本編じゃないよ?
タイトルからすると主演のバーフバリ/シブドゥを演じるプラバースのファンの集まりなのかなと思うけど、それにしてもこの盛り上がりはやばい。
この動画を見たら、見に行きたくなるだろう。紙吹雪舞ってるし、G1か。
ところで、ライムスター宇多丸さんも同じ動画を見たらしい。
ところで、書き起こされた宇多丸さんの映画評がとにかくすべてを代弁してくれてるのではないかというほどまとまってる。さすがムービーウォッチメン。
この、「ストーリー、感情と、その空間の舞台立てと、アクションが一致する」ってこれ、「映画的面白さ」のキモですよね。
ちょうど宇多丸さんが語ってるのは、デーヴァセーナとバーフバリがすごく息ぴったりでリズム感よく敵を倒してくシーンなんだけど、なるほどこういう風に見るのかととても勉強になる。めもめも。
とくに、ここは伏線が効いてて格好いい。
バーフバリの「指は四本ですよお嬢さん」的なセリフ、痺れた。
『バーフバリ』の演出はほんとうに決めるところをきちんと決めて外さない感じがすごく良い。
『バーフバリ 王の凱旋』で好きなシーンランキング
好きなシーンは、
第一位:バラーラデーヴァのカリギュラっぽいマシーンにシブドゥが突っ込むシーン
かっこよすぎる構図。すごい。絵画か。しかもスローで見せてくれる。かっこよすぎる。
第二位:バラーラデーヴァにとどめを打つシブドゥの背後で形を変える雲
あれはシヴァ神だったのだろうか、バーフバリだったのだろうか。かっこよくてすごく好きだ。ディズニー映画の『ヘラクレス』にもありそうなシーンだけど、実写でCGであんなに格好いいとは思わなかった。
第三位:カッタッパがバーフバリを後ろから刺す、影絵のようなシーン
めちゃくちゃ印象的。しかも背景は燃え盛る炎。他のシーンに比べたら抑え目の演出なのかもしれないけど、記憶に残るシーンだと思う。
第四位:デーヴァセーナのセクハラ対応とその間違いをよりクレイジーな方法で正すバーフバリ
鉄拳制裁夫婦の誕生だった。デーヴァセーナは確か相手の男の太刀を抜いたんだと思うけど、速すぎてそれにもびっくり。思わず映画館で「えっっ」って声が漏れた。
第五位:シブドゥが城門を越えてくシーン。
まさかの作戦もう見てもらうほかない。カッタッパのいう「知恵」、斜め上を行ってた。ところでカッタッパという名前、ドラゴンボールに出てきそう。バーダック的な。
見逃した名作の名シーンを体験させてくれる映画
とにかく今作を劇場で見てよかったと思うのは、色んな映画の引用がすごいクオリティとスケールで展開されること。そのおかげで劇場で見られなかった名シーンを体験させてくれたような感覚になった。
あとは、色んなところで指摘されてる引用元の映画ももっとちゃんと見たいなと思った。『ベン・ハー』『カリギュラ』『エクソダス:王と神』らへんはちゃんと見てないので、これを機に見たい。
(個人的には矢が降って来るシーンではチャン・イーモウ『HERO』を思い出した。あとは『トロイ』のアキレス(ブラピ)の強さとか。)
とにかく素晴らしい映画体験で、映画って面白いなあいいなあと思わせてくれる作品だった。
【映画の感想】『恋人たちの予感』メグ・ライアン主演の良質なラブコメディ
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あらすじ
サリーがはじめてハリーに出会ったのは、大学卒業後NYに向かうまでのドライブ。歳月が過ぎ、空港でばったり再会した2人は「何でも話せる異性の友達」というスタンスを崩さずに接し、お互いの恋人についても相談し合う仲。だが、それぞれが独り身になった時、二人の関係は微妙なバランスに……。(amazonの内容紹介から恋人たちの予感<特別編> [DVD])
メグ・ライアンは一時期ラブコメディの女王的な存在で、『めぐり逢えたら』(1993)や『ユー・ガット・メール』(1998)などヒット作がある。これらの二作は本作で脚本を務めたノーラ・エフロンがやはり脚本を務めている。
ところで原題はWhen Harry Met Sallyで、邦題は『恋人たちの予感』
マーケティング重視で内容が軽視されたような邦題の付け方が話題になりがちだけど、今作に限っていえばとても小洒落たタイトルではないだろうか。
予告編
When Harry met Sally... (1989) - Trailer HD Remastered
本作の魅力と見どころ
①お喋りなメグ・ライアンが可愛い
本作でメグ・ライアンが演じるのは少しお喋りで「ネアカ」の女性サリー。チャーミングなんだけど、料理の注文がやたらめったら長くて細かい。正直バイト先に来たらまあ面倒に感じるお客さんだ。
サリーの髪型(ソバージュって言っていいのか)にもハリーのトレーナーにも時代を感じるんだけど、80年代から90年代の電話とか小物が可愛い。初期のフルハウスみたいな雰囲気かな。
ちなみに、最近のメグ・ライアンは整形で様子が変わってしまったことが話題になっていたけれど、ヒュー・ジャックマンと共演した『ニューヨークの恋人』(2001)などのころはまだまだ可愛かったと思う。ヒュー・ジャックマン演じる貴族もめちゃくちゃ格好よかった。(たしか明石家さんまがメグ・ライアンが好きと発言していたっけ)
なんとなく、キャリスタ・フロックハートってメグ・メグライアンに雰囲気似てるかも。
②男女の率直で軽妙な会話
一番の見どころは二人の軽妙なやりとりだろうか。
割と売り言葉に買い言葉で喧嘩しがちではあるんだけど、恋人未満の友達以上の二人が反目し合いながらも友情(?)を育んでいく様子はキュートだし、率直に語られる会話も男女の文化や見方のギャップを明らかにしていて興味深い。
映画の中の男女の会話って、内容も知的でユーモアがあって楽しいものが多い。そして、楽しいお喋りがある映画は何度でも繰り返してみたくなる。
例えばリチャード・リンクレイター監督の『ビフォア・サンライズ』(1995)『ビフォア・サンセット』(2004)『ビフォア・ミッドナイト』(2013)もそう。
③マンハッタンに実在する美味しそうなお店「カッツ・デリカテッセン」
この映画で名所となったマンハッタンのロウアー・イースト・サイドにあるユダヤ系の飲食店「カッツ・デリカテッセン」のシーンは見ものだ。なんとメグライアン演じるサリーが「セックスで感じてる振りをしてる女性」をハリーに演じてみせる。とくにユーモラスなシーンのひとつだ。
このお店、映画に取り上げられたことですっかりニューヨークの名所らしく、ガイドブックに必ず載っているという。
後述の岡田斗司夫さんの動画によれば、ディズニーのミュージカル映画の『魔法にかけられて』でも登場したらしい。見たけどあまり覚えてない。
ちなみに、デリカテッセンは、簡単にいうとお惣菜屋のことらしい。
デパートやスーパーマーケット内部のデリコーナーである場合と、独立した商店である場合がある。アメリカ合衆国では独立したデリはソフトドリンク、低アルコール飲料(ビール等)、生活雑貨等も取り扱っており、コンビニエンスストアの役割も果たしている。注文に応じてサンドイッチを作ってくれる店舗が多く、店舗内に飲食設備を設けて、ファスト・フード店、または、カジュアルレストランとなっているところも多い。
ミーハーとは思いつつも、ニューヨークに行ったら尋ねてみたい場所だ。名物のパストラミ・サンドも美味しそう。
岡田斗司夫さんもカッツ・デリカテッセンでサンドイッチ食べた感想を動画で語っている。
パストラミ山盛りで試食させてくれるらしい。やべぇ。
見終わったら参考にしたい動画
【本の感想】ポール・オースター『リヴァイアサン』
本当にたまにしか小説を読まないけど、タブッキと並んで小説を沢山読みたいなーと思わせてくれた作家、オースター。本作もとても楽しめた。
- 作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/11/28
- メディア: 文庫
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あらすじ
一人の男が道端で爆死した。製作中の爆弾が暴発し、死体は15mの範囲に散らばっていた。男が、米各地の自由の女神像を狙い続けた自由の怪人(ファントム・オブ・リバティ)であることに、私は気付いた。FBIより先だった。実は彼とは随分以前にある朗読会で知り合い、一時はとても親密だった。彼はいったい何に絶望し、なぜテロリストになったのか。彼が追い続けた怪物リヴァイアサンとは。謎が少しずつ明かされる。(amazonより)
奇妙な友情というか、友情ってそもそも……
お話の語り手である作家のピーターとその友人でこちらも作家であるサックスの物語だ。もちろん他にも魅力的な登場人物が登場するけど、基本的にはこの二人の奇妙な友情の話だと思う。
友情や友人というものは何か曖昧で、お互いの関係を真剣に突き詰めてしまうのは身も蓋もないのではないかということを考えさせてくれる小説だった。
ここにいない誰かを語る、文体の妙
彼にとってそれはきっと、ひどく長い、壮絶な、苦しみにみちた旅路だったにちがいない。そのことを想うと、私は泣きたくなる。十五年のあいだにサックスは、自分という人間の一方の端からもう一方の端まで旅したのであり、その最後の地点にたどり着いたころには、おそらくもう、自分が誰なのかもよくわからなくなっていたのではないか。あまりに長大な距離が踏破され、どこから出発したのか、もはや覚えていようもなかっただろう。(『リヴァイアサン』26-27頁)
ここはテロリストとして爆死してしまったサックスに対する気持ちなんだけど、この文章がすごく効いていて、小説を読み終わるまで何度も思い出してしまった。
まだ30頁も読んでないのに、サックスとピーターの関係性も全然知らないのに、これから語られるってところなのに、既にここで涙腺が緩んでしまった。なんだかオースターの書くものは、誰かの心に突然ダイレクトに入り込んでしまったような、内面の一番脆くてやわい部分をいきなり掴まされてしまったような気持ちになる。
しかもサックスはミステリアスで掴みどころがないにもかかわらず、目の前にいるときにはだいたい明解な人物で、ユーモアがあって、お喋りで、不器用で器用で、とにかく魅力的な人物だ。そして、サックスが死んでしまった場面からはじまる本作は常に悲しげな雰囲気を漂わせている。サックスが素晴らしい人物であることがわかるほど、つらい。だってサックスはもういないのだ。
オースターはこういうもういない人物とか誰かの思い出を語らせたらピカイチの作家なんじゃないだろうか。
既に傍にいない誰か(家族、友人、知人etc...)について主人公が語ってくれるときの文体がとてもいい。本当に知り合いについての話を聞いてるみたいだし、人物の捉え方が好きだ。例えば、サックスの仕事ぶりについて語るところ。
十九世紀パリの遊歩者のごとく街なかをうろついて、気の向くままに好きなところへ出かけた。散歩をし、美術館やギャラリーに行き、昼間から映画を見て、公園のベンチで本を読んだ。他人と違って時計に縛られていないから、時間を無駄にしているという気になったりもしなかった。だからといって、大して仕事をしなかったわけではない。ただ単に、仕事と怠惰とを隔てる壁が彼の場合ほとんど崩れていて、そこに壁があることさえほとんど目に入らなかったのだ。(『リヴァイアサン』72頁)
サックスの行動について書いているところ(散歩に、美術館に、映画館に、講演に行きetc)まではふむふむそいう言う人物なんだなと読むんだけど、「仕事と怠惰とを隔てる壁が」で一気にそうなんだと納得してしまう。サックスってそういう人物なんだなと。
おもしろいのは、勤勉と怠惰ではなく、仕事と怠惰という対になっている部分だ。怠惰であるように見えることこそが、仕事なのであり、傍から見れば怠惰に見える態度ほどサックスの仕事の組み立てのなかで重要な部分を形づくってるのかもしれない。
勤勉以外の仕事の在り方とでもいおうか。
印象に残るエピソード
小説の本筋に一見関係のないエピソードが好きだ。
それはテレビドラマにしたときにはカットされてしまう部分だろう。
でも、語りに現れるなんてことないエピソードこそが、その人物が本当にいたんじゃないかってリアリティーを与えてくれる。
本作で忘れられないのは、サックスの実家に遊びにいったときに母親とサックスが語る自由の女神のエピソード。
母親とサックスと、知人の親子で、自由の女神観光に出掛けた。女神像のなかを階段を登っていくんだけど、王冠のところまで来てから先は手すりがなかった。そこでサックスの母親は思いがけずトラウマのような体験を得る。
あのころはまだ松明のところまで入れてくれたんだよ。〔……〕行ってみたら、今度の階段は、さっきのと違って手すりがないんだよ。あんなに狭くて、くるくる回る鉄階段なんて見たことない。消防士の出動柱に出っぱりがついたって程度だね。女神の腕のすきまから試しに下を見ると、空中五百キロくらい上がった気分なんだ。まわりには何もなくて、まるっきりの虚空。〔……〕あたしは三分の二くらい進んだあたりで、これは駄目だと思った。(『リヴァイアサン』62頁)
このあとサックスの母親は階段から墜落するのではとパニックになり、それ以来高所恐怖症になったことを明かす。サックスは、これについて以下のようにコメントしている。
「それは僕にとって、政治理論に関するはじめての教訓だった」「自由というものが時に危険であることを僕は学んだ。気をつけないと、命を落とすことになりかねない」(『リヴァイアサン』63頁)
サックスは物書きとしても多少政治的な人物であるようだし、自由の女神はもちろん自由の象徴だし、サックスはどこかの街の自由の女神を爆破する途中で死んだのだから、とても示唆的なエピソードだ。
ただこのエピソードは個人的にすごく印象的で、私のような集中力のない読み手からしたらサックスが女神像を爆破していたという本筋よりもこちらのエピソードのほうが記憶に残るだろう。もちろん主題に深くかかわるエピソードではあるが。
オースターの本は、その本の中で自分がどこを重要に感じるのか選ばせてくれる感じがする。もちろん作家によって巧妙に女神像のエピソードに誘導されてはいるのだろうけど、個別の語り自体がとても魅力的なのだと思う。
一冊に多くの人の多くの人生が何層にも織り込まれてるような、そんな読書体験だった。次はオースターの一体どれを読もうか。
【マンガの感想】『北北西に曇と往け①』『さめない街の喫茶店①』『ロマンス暴風域①』『あれよ星屑⑥』
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入江亜紀『北北西に曇と往け①』
舞台はアイスランド島、北緯64度のランズ・エンド。
17歳の主人公・御山慧には3つの秘密があった。
ひとつ、クルマと話ができる。ふたつ、美人な女の子が苦手。
3つ、その職業は、探偵――。
あるときは逃げ出した飼い犬を連れ戻し、
またあるときはひと目ぼれの相手を探し出す。
愛車ジムニーを駆りながら、
胸のすくような探偵活劇が、いま始まる!
若き魔法使いの成長を描いた『乱と灰色の世界』から2年。入江亜季の最新作は極北の大地が舞台の“エブリデイ・ワンダー”!!amazonのあらすじ
絵が、相変わらずとてつもなくお上手でため息がでるほど。
出てくるキャラはイケメン、美人、イケオジって感じで、とくにオジサンキャラが粋で色っぽくていい。あと『乱と灰色の世界』もそうだったけど、イチャイチャ描写がいい。
アイスランドが舞台で、湿地とか荒原とかの風景が、なんだか空が高くて、爽快。
主人公の慧は探偵で、一巻前半を読む限りでは、ちょっといい話が続くのかなと思ったのだけど、後半は殺人容疑で追われてる弟の登場で一気に緊張感が。
次巻も気になる。
はしゃ『さめない街の喫茶店①』
ある日突然、眠りから目覚めることができなくなったスズメは、「ルテティア」という“さめない街”に迷い込み、喫茶店「キャトル」で働くことに。
いったいなぜ目覚めなくなってしまったのか、美味しい喫茶メニューと魅力的な夢の住人たちとともにひも解いていく、新感覚のグルメファンタジー。
新進気鋭の人気作家、商業初の単行本。amazonのあらすじ
眠りから目覚めることがなくなったという設定部分が、未だに謎なんだけど、ずっとこの世界で暮らしてくれちゃっていんじゃないかと思うほど、日常パートがまったりしてていい。
鯨便などまだまだ説明されてない要素も多いので、この後設定が少しずつ明らかになっていく感じなのかな。
あらすじでは『グルメファンタジー』とあるけど、食べた感想などあっさりしてて、むしろ作るほうにスポットがあたってる作品。主人公も作る人。
たしかに主題はグルメなんだけど、力が入りすぎてなくて、すごくお洒落。
BRUTUS読んでるみたいな。
もちろん料理の絵は美味しそうなんだけど、ぎとぎと感がなくて、想像力を刺激される感じで昔読んだ児童書を思い出す。
鳥飼茜『ロマンス暴風域①』
高校の臨時教員であるサトミンは、講師の契約期限は迫り学生時代に付き合った彼女と別れて以降独り身が続いている。しかも婚活では非正規職であることを理由に相手にされず、恋愛に対して自信を喪失中。しかし、気分転換に行った風俗で出会ったせりかに、お金や肩書など関係ない“運命の出会い”を感じる。客と風俗嬢の関係からスタートした2人の仲は接近していき……。
肩書、年齢、男性であること――。目を背けることのできない現実に惑う主人公が求める、真実の愛とはなにか。“恋愛弱者のロマンス”ここに開幕!amazonのあらすじ
恋愛弱者では済まない何かだったよね。
いやー、面白いんだけど、正直きつかった。
なぜだろう、男性目線が少ししんどいのかな。
『地獄のガールフレンド』も『おんなのいえ』も男女の抜き差しならないリアルな感じが、刺さって好きなんだけど、今回の男性主人公はちょっとしんどかった。
とくに一巻最後の方の主人公の行動が、わりと怖かった……。凸ってね。
多分タイミングの問題で、いまはこういう繊細な作品を読むと刺さり過ぎるのかもしれない。ファンタジーが読みたい理由もそこにあるのかも。
何かに向き合いたくなったら、続編読みたい。
山田参助『あれよ星屑⑥』
兄と自分を戦場へ送り出した父親の死、川島徳太郎は誰にも何も告げることなく、ひとり旅へ出るが……。戦後日本の“生”と“性”を活写する話題作、物語は静かなるクライマックスへ向かう……。
amazonのあらすじ
なんと次巻が最終回!
前半は割と笑える展開。
カンナ泉が出てくると場面がぱっと明るくなる。
さすがに、スミちゃんに乳バンド見せるわけにはいかないよね。
後半は、徳太郎と門松で亡くなった隊員の遺族を訪ねてまわる。その先で、隊員の奥さんに会ったりするんだけどそれぞれ事情があって、なかなか世知辛いというか……。